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ずっと聞きたかった

ずっと確かめたかった

「マナ……あなたは、今幸せ?」
その言葉に、マナは微笑を浮かべて頷いた。
それは、いつしか忘れてしまっていた、羅侯が大好きなマナ。
「良かった……」
無意識だった。無意識のうちに出た言葉だった。
マナが静かに近寄る。何も言葉はない……だが羅侯にはマナの心が判った。
「ごめんね……僕が呼んでしまったんだね……」
そっと、羅侯は手を伸ばした。触れている筈なのに、感触はない。手が届くところに居るのに、今はもう遠すぎて触れる事すら叶わないのだ。
「僕は大丈夫。……心配を掛けてごめんね?でも、もう大丈夫だから……」

……在るべき場所へ……

羅侯の言葉に導かれる様に、マナは無数の蝶へと姿を変え、空高くへ……マナを待つ人の元へと還っていった。
見送る羅侯の頬を、冷たい雫が伝う。
羅侯はその雫の名も判らずに、いつまでも空を見上げていた。

泣かないで……

僕なら大丈夫

大丈夫だから

“僕”という幻想に
囚われないで……

まほらばの夢を
終わらせて

僕は唄い続けよう

あなたに届くように……

あなたの幸せを祈りながら

いつまでも……

……ずっと……

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泣かないで……

僕なら大丈夫

マナが寂しくないように

どこに居ても

僕が判るように

風に調べを乗せて

あなたに贈ろう



羅侯が大気に溶ける……人の悪意が羅侯を蝕む。終焉の刻は、ゆっくりと迫って来ていた。

羅侯は、己れの宿命を受け止めていた。

でも……

未来が視えた。

それは、余りにも無慈悲で……

運命を遵守して来た羅侯の、最初で最後の抵抗。

幾つもの罪を重ねて尚、守りたかったのは、たった一人の“笑顔”

羅侯は、一つの“未来”を変えた。
それは世界が歩む筈だった“道”の喪失と同意の事で……
“道”を失った世界には無数の“可能性”が生まれた。
ばらばらに砕け散った“道”を世界は迷走し始めた。

羅侯のたった一つの守りたかったものは

切なる願いは

贖い切れない代償と引き換えに
成就したのだった

否、した“筈”だった。

マナのいなくなった泉の畔で、羅侯は今日も口ずさむ。
マナと交わした約束のままに……

風に紡がれて大気に溶ける様に、そっと唄う。


泣かないで……

“僕”という幻想に囚われないで……

まほらばの夢を終わらせて


「あなたは、どこから来たの?あなたも一人?」

ふわふわ

ふわふわ

蛍火は羅侯の周りを遊ぶ様に泳ぐ。
羅侯は首を傾げて両腕を広げる。すると、誘われる様に、その蛍火は羅侯の手の中にスッと収まった。
「ああ……あなたは現し世を生きているんだね……迷い込んでしまったのかな……」
夜は、人を惑わせる。生きとし生ける者全てが、夢の世界をたゆたう時、稀に迷子になる魂がある。
「大丈夫……朝が来れば帰れるからね……」
その言葉に淡い光の球体は、手の内から飛び出して再び羅侯の周りを浮遊する。
「僕と居てくれるの?僕なら平気だよ」

もう二度と逢う事は叶わないけれど……

言いながら、空を仰ぐ様に見上げる。
「この空のどこかに、僕の大切な半身がいて」

きっと笑っている

もう僕の事なんて
記憶の片隅にもない

それを望んだのは
僕自身……

血に濡れた多くの罪
失う恐怖に流す涙

全てをここに置いて……

「幸せでいてくれるなら、僕も幸せだから……」
しんと冷たい静寂が広がる。言葉を持たないその魂は、それでも羅侯から離れようとはしなかった。
「……“外”の事を教えてくれるの?」

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※志杏椶が地上に起きる時に起きた、ちょっとした事件についてです♪第一章始まる一年前のお話

~戴冠式で芽生え、散る恋心~


【後編:散る恋心】


 果てさて、少々物騒な戴冠式から早1週間が経とうとしていた。志杏椶の旅立ちの用意も、順調に進んでいる。
 後3日もすれば、地上へと向かうこととなる。
「姉上ー!これ、どこに置けばいいんだ?」
「淘汰、ありがとう‥‥それは、ここら辺にお願い」
「了解!」
 淘汰も、姉の旅立ちの準備を手伝う毎日だ。荷物を置いてから、身体を伸ばす。
「悪いわねえ」
 苦笑しながらそう言う姉に、淘汰は笑顔で「いや」と応えた。本来なら、女中のするべき仕事だ。身の回りの‥‥衣服等は、既にまとめてある。
 今、仕分けしているのは書類‥‥ありとあらゆる、地上に関する資料の山だ。
 こればかりは、志杏椶自身がまとめなければ、どうしようもならないもので‥‥淘汰も加勢しているというわけだ。
「そういや‥‥今日は来ないなあ‥‥」
 淘汰が、背番号順に本を揃えながらポツリと呟く。その呟きに、ピクリと志杏椶が反応を示した。
「誰が?」
 その声には、明らかに険がある。「しまった」と思ってしまっても、後の祭りだ。
「いや、だから‥‥その‥‥」
 言い淀む淘汰に、志杏椶は不機嫌そうに言う。
「来ない方が、平和だわ!鬱陶しい‥‥何の嫌がらせかしら‥‥」
「‥‥嫌がらせって‥‥ただ単に、純粋に、姉上が好きなだけなんじゃ‥‥」
 そう応えた淘汰をきっと睨むと、志杏椶は嫌悪感丸出しに言う。
「は?あなた、本気で言っているの?淘汰‥‥判ってないっ!判ってないわっ!!武人として‥‥自分を倒した相手に惚れるなんて、絶対の絶対に有り得ないわ!」
-判った!?
 念を押すと、もうその話題に興味すらないのか、本の整理に戻った。

-こりゃ、ダメだ‥‥

 思わず、淘汰はため息をついた。もちろん、姉にはばれないように、こっそりと。
 志杏椶は、見目麗しい娘だ。容姿だけを言うならば、深窓の令嬢にしか見えない‥‥その細腕は、「箸より重いもの、持ったことないの」と言われれば、思わず納得してしまうだろう‥‥それほどまでに、線の細い娘である。
 だがしかし‥‥今の今まで、たったの一度だって、浮いた話‥‥つまりは、恋の話が全く聞こえてこないのは、ひとえにこの志杏椶の性格に問題が‥‥否、性格ではなく思想に問題があるからで‥‥

 淘汰の知る限り、志杏椶へ思いのたけを募らせる男性は山の程いた。だが、いづれも玉砕‥‥恐らくは、志杏椶としては振ったつもりなど更々ないのだろう。

 そう、全く持って、恋愛方面には疎いのだ。

 外見を裏切り、内面は大変男らしい‥‥いやいや、武人そのもので‥‥

 後ろで、綺麗に切り揃えられた髪も、志杏椶はつい先日までザンバラのままだった。‥‥そう、戴冠式にて自ら切った髪‥‥それを、自分で簡単に結わえるだけで、この一週間近くを過ごしていたのだった。

『短くなって、すっきりしたわ。え?まあ、そのうち揃えるわよ』
 切り揃えるよう、進言する女官達に、いつもこう笑って言ってかわしていたのだ。

 切り揃えたのは、志杏椶付きの女官達に泣き落とされたから‥‥ではなく、さめざめと泣く女官達を見兼ねた、志杏椶の友人であり今回の地上鎮定の任を共に受け、志杏椶の補佐官として同行する事が決まっている韋駄天 雄飛の鶴の一声だった。

『志杏椶殿、妙齢の女性がその髪‥‥上に立つものとして、示しが付かないのでは?』

 その言葉受けて、「それもそうね」と、ようやく髪を切り揃えたのだった。
 自分の姉ながら、どうしてこうまで外見と内面にギャップがあるのか‥‥淘汰は不思議で仕方がない。弟ながら「嫁に行き遅れてしまうのでは?」など、いらぬ心配を時々してしまうほどだった。

 と、それぞれの作業に勤しんでいたその時‥‥

「ごきげんよう!麗しの姫君っ!!」

「来たか‥‥」
 
 部屋の扉を境界に、温度差がぐんぐん開いていく。淘汰の耳には、しっかりと、絶対零度の呟きが聞こえたのだが‥‥訪問者はそんな志杏椶の様子に気付く様子が全くない。
 淘汰は、その場から逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。だが、動くことが出来ない‥‥今日は、天気が良く日差しも暖かいはずなのに、淘汰は身震いせずにはいられない。

「あら、豪殿‥‥今日はどのようなご用件で?」

 爽やかな笑みをその顔に貼り付けて、志杏椶が言う。淘汰には、「用がないなら、とっとと帰れ」という心の声が聞こえてきた気がして、泣きたくなった。

「これはこれは、つれないな‥‥俺の姫君は!」
「あら、これは奇なことを仰いますわね‥‥“いつ”“誰が”“どこで”‥‥あなたの者になったのかしら?」

 淘汰は、もう何度も繰り返された会話をほぼ覚えてしまっており、本当の本当に泣きたくなってきていた。‥‥淘汰には、判っていた‥‥姉の堪忍袋の緒が、そろそろ限界に来ていることが‥‥

 そして、淘汰は知っていた‥‥沸点の割と高い姉が本気で激怒したときの恐ろしさを‥‥

 だから、もう内心では無知な‥‥否、むしろ空気が全く読めていない竜族の青年 豪へ向かって「頼むから帰ってくれ!!」と懇願して止まなかったのだった。
 だがしかし、その願いが聞き届けられることはない。

 なんていっても、空気が全く読めていない‥‥志杏椶の言葉を借りれば「脳みそまで筋肉」な、豪だ。

 そもそも、最初っから志杏椶だってこんな酷い態度を取っていたわけではない。先ほども言ったように、志杏椶の沸点は高い‥‥つまり、滅多なことでは怒らない。
 最初、豪が尋ねてきたのは、戴冠式が終わってすぐのことだった。

『お待ち下さい!』
 戴冠式が、滞りなく(?)進み、胸を撫で下ろして志杏椶もさあ自室に戻りましょうかと、大広間を出たそのときだ。
 先ほど、手合わせしたばかりの若い竜族の青年が、衛兵に拒まれるのに構わず、懸命に抗いながら志杏椶に向けて声を上げた。
 その言葉を受け、志杏椶は近付く。
『すみませんが、その方とお話をさせて頂けませんか?』
 衛兵に対して志杏椶がそう言うと、衛兵達は戸惑った。守るべき主である志杏椶がそう言っているのだから、すんなりと青年を解放しても良いところだ。そう、通常ならば‥‥だが、今回ばかりは違っていた。
 先ほど手合わせした相手‥‥しかも、敗者だ。更に、相手は前回の武道会の優勝者‥‥
 志杏椶に対して、逆恨みしている可能性が高い。そんな危険だと重々判っていながら解放することは、衛兵としての使命から、どうしても出来なかったのだ。
 だが、続けて志杏椶が言う。
『大丈夫‥‥少し、お話をするだけです‥‥そこの方、豪殿‥‥でしたよね?申し訳ございませんが、武具を衛兵に渡してもらえませんか?そうでなければ、彼らにも仕事というものがありますから‥‥』
 そう言うと、案外あっさりと豪は武具一切の全てを衛兵に潔く明け渡したのだった。
『先ほどは、手合わせありがとうございました!』
 いきなり頭を下げてきた青年に、志杏椶は気を完璧に許してしまっていた。
『いえ、こちらこそ‥‥申し訳ございませんでした』
 これは、本心からの言葉‥‥どんなに男気が溢れていようと、志杏椶は“女性”で‥‥本人も、それを弁えていた。
 あの時、会場からの支持を得るためには青年から一本取る他なかったとしても、“女”に負けることが、どれほど屈辱的な事か‥‥
 それが、武道会で優勝した者となれば、尚更の事だろう‥‥だが相手の自尊心を考えれば、自分から謝に行くわけにもいかず‥‥だから、きっと頭を悩ませていた青年が目の前に現れた事で、気を許してしまうのも当たり前のことで‥‥
『それでお、お願いがあります!』
 この“お願い”とういうのも、ある程度想定しいた。
『何でしょうか?』
『これを受け取ってください。』
 だが、これがそもそもの、これが全ての間違いだった。見解の相違‥‥というのだろうか‥‥?
『もちろん、喜んで‥‥』
 笑顔で差し出された封書を受け取る。再戦の申し込みだと、志杏椶は信じて疑っていなかった。
『ありがとうございます!!』

-あらあら‥‥再戦を受けただけで、こんなに喜んでもらえるなんて‥‥

 久しぶりに、根っからの無頼漢に出会えたと内心喜んでいた矢先‥‥

『一生、幸せにします!!』

『‥‥は?』

 一瞬、志杏椶の思考が停止してしまったのは、言うまでもない。小躍りをし出すんじゃないかと思うくらい喜んでいる青年を横目に、恐る恐る、改めて手渡された封に目をやる。そこには‥‥

【交際申込書】

達筆な文字で、そう書かれていた。

-いや‥‥交際すっ飛ばして、“一生”はないんじゃないかな?

 そんな場違いな考えが、志杏椶の頭をよぎった。自分たちの主君の性格を熟知している衛兵達と、ちょっと離れたところで見守っていた雄飛が、とてもとても深~い溜息と付いたのだった。


 そうして、今に至る。志杏椶とて、自分の撒いた誤解の種だ。穏便に事を進めようと、丁重にお断りしていた。

『すみません。私‥‥勘違いをしてしまって‥‥申し訳ありませんが、あなたとはお付き合い出来ません。』

 遠まわしに断るならば、きっぱりと引導を渡した方が相手の為だと思い、そう言い渡したのが一週間前‥‥

だが‥‥それでは、事は収まらなかった。

頭の中が春色一色の豪には、全く持って通じない。

あまつさえ、

『そんな、照れるあなたが可愛いです!』

 そんな言葉を投げかけてきて、志杏椶は鳥肌が立った。

 断り続けて、もう一週間‥‥もう、相手をする気すら起こらない。いい加減、辟易していた。

 淘汰も、立派な被害者だ。
 
 どういうわけか‥‥淘汰が志杏椶を手伝いに来ている時間帯を見計らっているかのように、豪は志杏椶を訪ねてきていたのだ。

「まあまあ、そんな硬いことを言わず‥‥こうして逢瀬を楽しめるのも、後僅か3日しかないのですから‥‥」
 ため息なんて付きながら、無遠慮に部屋へ入って来る。

-あああああああ!!!!!!
 そんな、淘汰の心の叫びが豪に届くわけもなく‥‥

-ブチッ!!!

 淘汰にだけだろう‥‥豪快な音が、聞こえた気がした。

「‥‥いい加減になさい‥‥」
「何ですか?愛しの姫君?」
 豪は、志杏椶の纏う空気が一変した事にすら気付かず、豪は“愛しの姫君”の肩に手軽に手を置く‥‥否、置きかけた、まさにそのとき。

「鬱陶しいのよっ!!あなたっ!!!」

-バリーーーン!!!

 志杏椶の渾身の一撃が豪を見舞うのが先か、それとも窓が割れて外に豪が放り出されるのが先か‥‥

「頭の脳みそまで、筋肉な男なんて大っ嫌い!!!淘汰っ!!!」
「はいっ!!」
 いきなり名を呼ばれた淘汰が、ビシッという効果音が聞こえてきそうなほど勢い良く立ち上がる。
「ああいう、脳みそまで筋肉な馬鹿な男なんかになっちゃダメよ!!!」
「はいっ!!」
 
 実は、陣中見舞いに来ていた、桔梗とキリスト、マクスウェルがこのとき扉の向こうで一部始終を見ていたことが判明するのは、もう少しだけ先のこと‥‥

 こうして、志杏椶の武勇伝は、着実に増えていった。

 その後、竜族の青年 豪がどうなったか‥‥それは、本人のみが知る事である。

<終>



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※志杏椶が地上に起きる時に起きた、ちょっとした事件についてです♪第一章始まる一年前のお話

~戴冠式で芽生え、散る恋心~

【前編:芽生える恋心】

 晴れ渡った空‥‥一点の曇りもなく、どこまでも澄み渡っている。だが、東西両域の主だった面々が一同に介した東域の大広間は、どんよりとした重い空気に包まれていた。
 専ら、密やかに囁かれているのは、今日の主役である1人の娘のこと‥‥
「なぜ、こんな大切な役をあんな小娘に‥‥」
「本当に‥‥しかも、何も判ってはいない小娘が‥‥しかも、“東西双方に地上を守る使命を負う義務がある”とか‥‥ふざけた理由で西域の王と養子縁組とは‥‥」
「そもそも、王は何を考えておられるのやら‥‥」
 不平不満は、積もるばかり‥‥そんな時、衛兵の声が響く。
「西域 神聖王、東域 天帝 ご入場」
 水を打ったように、それまでの騒ぎが嘘のように、広間が静まる。壇上に据えられた玉座に、当代神聖王であるラスティと、同じく天帝である真武が座す。
真武の隣に立った、天帝補佐の焔磨天 焔祁が、一歩前へ進み出ると見渡しながら口を開いた。
「皆々様、今日はようこそ、伊倭王神任命式典にお越しくださいました。今、地上は“狩神”そして“妖”といった邪な者達に蝕まれています。
 そのような状況を打破すべく、東西両域における統制陣にて、慎重に討議した結果、わが娘 地天 志杏椶がこのような大役を仰せつかりました事、まことにありがたく存じます。」
 そう言って、恭しく一礼すると一歩下がった。続いて真武が鷹揚に頷くと、口を開く。
「何か、異論がある者はここで述べるが良い」
 すっと目を細めて鋭く見回すと、場に動揺が走った。真武の物言いは、まるでそれまで囁かれていた噂を全て聞いていたような‥‥全てを見通しているような言い様だ。
 その様子に苦笑を浮かべ、横から口を出すのが神聖王だ。
「天帝殿、そんなにきつく言っては、言えるものも何も言えまい‥‥」
 そう言うと、立ち上がった。
「今回の件‥‥東西両域において、不穏な噂が囁かれていること‥‥我々とて知らぬわけではない‥‥あるのならば、今この場で申し出られよ‥‥」
 暗に、「自分たちの選んだ“伊倭大神”より、相応しいと思うものはこの場で名のりを挙げよ」と仄めかす。その言葉に、再度場がざわめいた。
「志杏椶、ここへ‥‥」
 真武の促す声に導かれるように、志杏椶が一礼すると壇上へと進み出た。いよいよ、場がざわめく。
「このような、政も判らぬ、小娘に何が出来るというのです!」
 どこからか、そんな声が聞こえてきた。それが口火を切ったように方々から声が上がりだした。
「そうだそうだ!剣の腕も、本当のところどうなのか判ったものか!」
 話は、どんどん横へそれていく。
「武に長けているというのなら、何故先だって行われた武道会出場なされなかったのか」
「よもや、やはり噂が先走っただけではないのか?」
 暴走した話の行く先は、最早盛り上がる当人達にすらわからない。
「この間の武道大会、竜族の豪という若者が優勝したと聞く」
「本当に、自信があるのなら、竜族の豪から一本取ってみろ!」
「そうだそうだ!!」
 最早、この熱‥‥否、溜まった鬱憤は止まるところを知らない。志杏椶は、黙ったまま後ろに控えている王‥‥二人の伯父と、父に視線を向ける。
 三者三様‥‥頷き、苦笑を浮かべている。それを承諾の意と介した志杏椶が、そこで初めて口を開いた。
「これは、皆々様方‥‥申し訳ございませんでした。」
 少々大げさに、芝居がかった一礼をする。
「はっ‥‥お飾りの“王”か‥‥」
 声のほうに、その容姿からは予想も出来ないほど、鋭い視線で相手を黙らせると、また背筋が凍るほど爽やかな笑みを湛えて発する。
「では、私がその方と一戦交えて、一本取れば納得して頂けますか?」
「は?」
「皆様の前で‥‥今、ここで一戦交えようというのです‥‥」
 背後で、ラスティのみならず、傍らに控えている四聖天長ラグエルもこっそりと噴出す気配がした。真武と焔祁にいたっては、頭痛を感じて額を抑えているに違いない。手に取るように判る後ろの状態に心中で謝ると、言葉を続ける。
「それとも‥‥試合をされては、まずいのでしょうか?」
 困ったように‥‥思わず、擁護したくなるような問い方をする志杏椶に、会場が更にざわめく。
「そこまで仰るならば、お相手させて頂こう!」
 図太い声が、会場に響いたのはその時だ。壇上から一番離れた末席に居るにも関わらず、その存在感は大きくて‥‥
 モーゼの十戒の如く、人の群れが割れた。その道を堂々と歩いてくる。志杏椶の目の前まで来てみると、何と190cmは下らないだろう、筋骨隆々とした武官で‥‥まるで志杏椶は赤子のようにさえ見える。
「それがし、竜族の豪と申す。手合わせ願いたい‥‥が、拙者にもか弱い婦女子をいたぶる趣味は毛頭ござらん。辞退するなら今ですぞ?深窓の姫君?」
 そう言って、豪は志杏椶に頭を垂れた。青年に他意はなく本心から出た言葉であったが‥‥
<馬鹿にして‥‥ここで引き下がってなるものですか!>
 志杏椶には一向に、その心情は伝わってはいなかった。
「剣をここにっ!」
 鋭く言い放つのに、志杏椶の後ろに控えていた青年が一帯の剣を携えて志杏椶に献上する。
「志杏椶様‥‥余りご無理をなさっては‥‥」
「雄飛、私が負けると思っているの?」
 雄飛は、剣を受け取りながら不敵に微笑む志杏椶をみて、内心で無知な竜族の青年に合掌したのだった。
「諦めては、頂けぬか?深窓の姫君‥‥」
「その呼び名‥‥止して頂けるには、剣を交えるが一番かと?」
 ニッコリと‥‥何も知らぬものがみれば、うっとりしてしまうほど美しい微笑みを湛えたまま、剣を抜く。豪はやれやれと言った風に、剣を手に取った。
 いつの間にやら、志杏椶と豪を中心に円形の人垣が出来上がっている。
「いざっ!!」
 その場に居合わせた皆が、息を呑むほど激しい攻防が続く。

―キンッ!

 その攻防戦の終わりは、あっけなく訪れた。金属をはじく音が響き渡る。
「まっ‥‥参りました‥‥」
 腰を抜かし、この状況が信じられないというように相手を見上げていたのは豪だった。喉元には細い剣先が突きつけられている。宙を舞っていた剣を、視線を向けることなく空いている左手で掴む。
 相手から闘気が完全に失せた事を確認してから、志杏椶は目線を合わせて豪に剣を返した。
「お手合わせ、ありがとうございました。」
「あっ‥‥ああ‥‥」
 舞うようなその剣技に魅入ってしまっていた観衆から、拍手が沸き起こった。今まで実しやかに囁かれていた“剣豪”の実力を見せ付けられた以上、認めないわけにはいかなかった。
 それでも納得がいかない者というのは、どの世でもいるもので‥‥
「そっ‥‥そんな、武力だけ誇っていても、政が勤まるものかっ!!」
 往生際も弁えず、そんな戯言を言う方に皆の視線が集まった。
 正体は、もともと東域に対して‥‥否、志杏椶やその父である焔祁に対して良い感情を抱いていない、オリフィエル・バルク・スローネ‥‥今は亡き、焔祁の第二妃であるシュクラ・ユダ・スローネの実父であった。
 その取り巻きも、今となっては空しいばかりの反論を手伝う。最早、野次の次元だ。
<やっぱり‥‥>
 そんな思いでため息を付くと、志杏椶は剣を自らに向けた。
「女である事に、不満を抱いておられるのですか?」
 怒りか、それとも羞恥心からかオリフィエルの顔は真っ赤だ。
「当たり前だ!!女なんぞに、このような大切な大役を任せてなるものかっ!!王も、女の色香に血迷ったか?」
 回りの非難の視線にも気付かずに、ずらずらとどうでも良い御託を並び立てるのに、志杏椶は一層鋭くオリフィエルを睨みつける。
「女である事の、何がご不満かっ!この長たらしい髪か!?」
「志杏椶様!?」 
 言うなり、雄飛が止めに入るも間に合わず、志杏椶は自らの髪をバッサリと切り落とした。
「私のことを言うのは、構いません‥‥ですが、伯父上や義父上への暴言、撤回して頂きたい!」
 完全に、会場が志杏椶の味方に‥‥志杏椶が大衆に認められた瞬間だった。
 ラスティと真武は、やれやれといった風に視線を交わす。ラスティが隣に立つラグエルに目配せすると、意を汲んだラグエルが気まずい静寂を破った。
「さて、皆様方のお気もお済みでしょうか?かような茶番で、皆様方の了承を得たとは思えませんが‥‥今一度、志杏椶様を“伊倭大神”と認めて頂けるのなら、その意を示して頂きたい。」
 その言葉に、ポツリポツリと拍手が波打っていたが、いつの間にか広間が割れんばかりの大歓声に変わっていた。
 オリフィエルの惨敗は、誰の目から見ても明らかで‥‥
 このとき、正真正銘の“伊倭大神”としての志杏椶の地位は、確固たるものとなったのだった。

そして、このとき‥‥人知れず開いた一輪の花が‥‥

 その後、滞りなく進んだ「拝命の儀」‥‥その間ずっと志杏椶に暑苦しい‥‥もとい、熱い視線を送っていたのは、先ほど身も心も一本取られた竜族の青年であった。

<後半に続く>

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